2026/07/30 21:43

当店が扱ったバクテリアカモのなかで最も高値がついた1本。太い綾のHBT、ベルトループ付き、ジップフライ。腰の内側に韓国語のタグが残っていました(推定1970年代・販売済)
古着屋の棚で、白地に黒のまだらが入った服を見たことがあると思います。バクテリアカモ、アメーバカモ、まれにゼブラ。呼び名はいくつもあって、値札にはたいてい韓国軍 実物と書かれています。
当店はこの柄の服を12着、比較用に同じ韓国軍の無地のパンツを2本、これまでに扱ってきました。柄物の値段は¥2,900から¥23,500まで、8倍の開きがあります。同じ柄なのに、なぜここまで違うのか。
答えを探してタグを1枚ずつ見ていったら、市場で通っている話と、韓国側に残っている記録が、けっこうな幅でずれていることが分かりました。この記事は、その差を当店の実物写真で埋めるためのものです。
■ まず結論(この記事で分かること)
① バクテリアカモ・アメーバカモは、日本の古着市場でついた通称です。韓国側にこの呼び名の正式な柄名は見当たりませんでした。
② 韓国陸軍が迷彩の戦闘服を着はじめたのは1991年から。それ以前の陸軍は単色(国防色)でした。つまり70年代80年代の白黒まだらは、陸軍の制式戦闘服ではありません。
③ 白地に黒のまだらは、1969年に必修化された高校・大学の「教練服(교련복)」の柄として広く使われました。韓国の百科事典にも、白色地に黒色のまだら模様と明記されています。
④ ただし柄の源流は軍にあります。韓国が最初に作った迷彩は、米軍M1942スポット柄(ダックハンター)を下敷きにしたもので、ベトナム戦争期の海兵隊と特殊戦部隊が着ていました。
⑤ だから当店は、この柄を韓国軍の戦闘服とは断定しません。タグに何が書いてあるか、作りがどうかで、1着ずつ書き分けます。
【1960s〜】柄のルーツは、米軍のスポット柄を写した韓国製の迷彩

当店で2番目に高値がついた1本。ヒーロー個体より柄が細かく、粒が丸い。同じ「バクテリアカモ」でも柄は一様ではありません(推定1970年代・販売済)
迷彩柄のデータベースCamopediaによれば、韓国が最初に作った迷彩は第二次大戦の米軍M1942スポット柄を写したものでした。導入は1960年代。ベトナム戦争のあいだ、韓国陸軍の特殊戦部隊と海兵隊が着ています。
初期の韓国版には、原型と違う特徴が3つありました。5色を使うこと、HBT(ヘリンボーンツイル=杉綾織)にプリントされること、そしてリバーシブルではないこと。米軍の原型は表裏で柄が違う両面仕様でしたが、韓国版は片面だけに刷られました。
そして、この柄は1970年代半ばに海兵隊・特殊戦部隊の手を離れます。ただ消えたのではなく、1990年代まで公立高校の軍事教練プログラムで使われ続けたとCamopediaは書いています。ここが、この記事のいちばん大事な分岐点です。
【〜1991】そもそも、韓国陸軍は長いあいだ迷彩を着ていない

当店が扱った韓国軍のベイカーパンツ。無地のオリーブ、腰に軍のスタンプ(推定1960年代・販売済)

同じ個体の生地寄り。V字が連なる杉綾=HBTがはっきり見えます。これが軍支給品のHBTの見え方
韓国の報道(2014年)は、韓国軍が単色の戦闘服からまだら迷彩の戦闘服に切り替わったのは1991年からだと書いています。デジタル迷彩への再切替が2011年。つまり、まだら迷彩の戦闘服は1991年から2010年代までの服です。
この事実は、写真の1本が黙って証明してくれます。当店が扱った韓国軍のベイカーパンツは、無地のオリーブ。生地はHBT。腰には翼を広げた鳥のスタンプが押されています。

もう1本の韓国軍ベイカーパンツ。前腿にフラップ付きのポケット。こちらも無地(販売済)
軍から出た服には、こういう分かりやすい印が入ります。スタンプ、刻印、契約の番号。米軍でいえばDSAやDLAの契約番号にあたるものです。
これから見ていくバクテリアカモのタグには、それが1枚も出てきません。出てくるのは、制服屋の名前と、ブランド名と、サイズだけです。
【1969〜】白黒まだらの本籍地 — 教練服(교련복)という服

白が白いままの個体。前期のものに比べて生地が薄く、軽い(推定1980-90年代・販売済)
韓国民族文化大百科事典に「교련복(キョリョンボク)」という項目があります。教練という科目を受ける学生が着た服のことです。
登場は1969年。1968年1月に北朝鮮の特殊部隊がソウルの青瓦台を襲った事件を受けて、教練が高校と大学の必修科目に指定されたのがきっかけでした。構成はシャツ、パンツ、帽子。そして生地の説明が白色の地に黒色のまだら模様。当店の在庫と、そのまま一致します。
終わりのほうも記録が残っています。1994年に科目から軍事訓練が外れ、教練服は学校ごとの選択になって体操服に置き換わっていきます。1997年に高校の教練は選択科目へ。2011年に科目そのものが姿を消しました。
だから当店は、この柄を「1969年から90年代半ばごろまで、韓国の学校で大量に着られた服の柄」と考えています。軍と無縁ではありません。Camopediaは士官学校や幼年学校で今も残っていると書いています。ただ、陸軍の戦闘服だったことは、少なくとも1991年より前についてはありません。
【1970s】当店の最古参 — 영진제복のタグが残るHBTパンツ

ヒーロー個体の腰まわり。ベルトループ、タック、そして小さな白いタグ

そのタグの寄り。赤い枠に15、下にハングルで영진제복。제복は韓国語で「制服」
14着のなかで、いちばん古い作りをしていたのがこの1本です。生地は明らかにHBT。糸が太く、目が詰まっていて、手に持つとずしりと重い。白は経年でクリーム色に寄っています。
腰の内側に小さなタグが残っていました。読めるのは2つだけ。赤い枠のなかの15と、その下のハングル영진제복(ヨンジンジェボク)。제복=制服です。つまりこれは、制服を作っている会社の名札。
軍の契約番号でも、部隊名でも、装備品番号でもありません。15がサイズなのか管理番号なのかも、当店では分かりませんでした。分からないものは分からないままにしておきます。

前立てはジップフライ。当て布の裏側を見ると、柄が薄くしか写っていない=片面だけにプリントされている

スライダーにはYKKの刻印。ただしYKKは1970年代に世界最大手になっていて、現行品にも普通に使われます。ここから年代は決められません
作りは真面目です。ベルトループ、ジップフライ、黒い4つ穴ボタン、二重のステッチ。あとで出てくる総ゴムの個体とは、手のかかり方が違います。
ひとつ、年代の話で気をつけたいこと。ジッパーがYKKだから新しい、という読み方はできません。YKKは1970年代には世界最大手で、当時の韓国製にも現行のレプリカにも同じように付きます。ジッパー1点で年代を決めるのは、ミリタリー古着でいちばん多い読み間違いです。
【1970s】前期のもう1本 — 裏を見れば片面プリントが分かる

前立ての内側。表は真っ黒なのに、裏はうっすら灰色。片面だけにプリントされている証拠です

ボタンはオリーブの4つ穴。後期個体の白いボタンとは別物です
こちらもベルトループ付きのジップフライ。ヒーロー個体より柄が細かく、粒が丸みを帯びています。同じ年代帯でも、柄はロットで変わったのだろうとみています。
見どころは前立ての裏です。表では真っ黒に見える部分が、裏からは灰色に透けているだけ。Camopediaが書いていた「韓国版はリバーシブルではない」が、そのまま手元で確認できました。米軍の原型を写しながら、両面刷りの工程だけは落としている。安く早く作るための省略です。
ボタンはオリーブ。のちの個体の白いボタンと違います。細かい話ですが、こういう部品の色は、年代帯を絞るときの補助線になります。決定打にはしません。
【1980-90s】総ゴムウエストの後期型 — 作りが目に見えて簡略になる

ウエストは総ゴム。ベルトループもタックもありません

別個体。同じく総ゴム。白の抜けが良く、生地は軽い綾織
当店が扱った柄物12着のうち、5本がこのタイプでした。前期との差は、持てばすぐ分かります。
ウエストが総ゴム。ベルトループなし、タックなし、フライは簡略。生地はHBTではなく普通の綾織で、薄くて軽い。白は白いまま抜けています。
作りが軽くなる方向と、この柄が学校の教練服として大量に作られていった時期は、重なっているように見えます。ただしこれは当店の見立てで、裏付けとなる資料は見つけられていません。推測として書いておきます。
【1980-90s】タグを読む① UTU(大)— サイズは漢字で入っている

ロゴマークの下にUTU、さらに下に(大)。軍の番号や部隊表記は一切ありません
総ゴム個体の1本に、はっきりしたタグが残っていました。丸いロゴマーク、その下にUTU、いちばん下に(大)。
ひとつ訂正があります。当店はこの個体を出品したとき、タグをUTCと記載していました。今回あらためて写真を拡大して読み直すと、3文字目はCではなくUに見えます。UTUと読むのが正しいとみています。
そして(大)。サイズを漢字で書いているわけです。軍の装備品なら、サイズは規格化された数値か記号で入ります。ここに入っているのは、市販の衣料と同じ書き方です。
【1990s】タグを読む② an-arkhos 대 — ハングルで「大」

an-arkhosのシャツジャケット。胸ポケット2つ、開襟、白いボタン(推定1990年代・販売済)

襟裏のタグ。小文字でan-arkhos、下にハングルで대(テ=大)
日本の古着市場でいちばんよく見かけるタグが、このan-arkhosです。当店が扱った柄物12着のうち、5着に付いていました。多くのショップが「韓国軍のブランド」として紹介しています。
当店も調べましたが、韓国側の一次情報に行き着けませんでした。会社の沿革も、軍への納入実績も、確認できていません。日本の古着店の商品説明だけが大量に出てきます。それを根拠に「韓国軍のブランド」と書くことは、当店はしません。
写真から言えるのはここまでです。ベージュの布に小文字でan-arkhos。その下に手書きに近い書体で대(テ)。대は韓国語で大。サイズ表記です。軍の刻印は、どこにもありません。
【1990s】タグを読む③ ANHELON「NEW MADE」— これは新しく作られた個体です

ANHELONのシャツジャケット。作りはan-arkhosとよく似ています(推定1990年代・販売済)

襟裏のタグ。ピンクの印字でANHELON、その下にNEW MADE FREE
この記事でいちばん、はっきりものを言ってくれたタグがこれです。白いサテンの布に、ピンクでANHELON。その下にNEW MADE FREE。
NEW MADE=新しく作られたもの。FREE=フリーサイズ。軍の放出品に、こんな表記は入りません。市販品として新しく作られた個体だと当店はみています。
そして正直に書いておくことがあります。当店はこの個体を、メルカリで韓国軍 実物という表記で出品していました。タグを読み直した今なら、そうは書きません。柄の系統は同じでも、この1着は軍から出た服ではないと考えるほうが自然です。
この柄が、韓国で長く作られ続けたことの裏返しでもあります。学校で必要とされ、工場が刷り続け、需要が変わったあとも同じ版で市販品が作られた。だから同じ柄で、70年代のHBTと、90年代のNEW MADEが、同じ棚に並びます。
【1990s】タグを読む④ 何も書かれていないタグ

クリーム色に寄った個体。ボタンも生成り(推定1990年代・販売済)

襟裏のタグ。白いサテンに、印字が一切ありません
白いサテンのタグが縫い付けてあるのに、文字が1つもない個体もありました。もともと無地なのか、洗いで印字が飛んだのか、当店では判断がつきません。
こういうときに、それらしい年代やメーカーを埋めないことが、古着屋の仕事だと思っています。分からないものは、分からないと書く。
柄は1つではない — 大きさも形も個体で変わる

細く長い虫のような形が絡み合うタイプ

同じ90年代帯でも、こちらは粒が短く丸い。同じ柄名で括られている中身は一様ではありません
12着を並べて分かったのは、バクテリアカモという1つの柄があるわけではないということでした。
太くて大きな塊が並ぶもの。細い線が絡み合うもの。粒が丸く小さいもの。黒の面積比も、個体ごとにけっこう違います。
残念ながら、柄の大きさから年代を割り出すことは当店にはできませんでした。版の違いなのか、工場の違いなのか、判断材料が足りません。年代の手がかりとして信用しているのは、いまのところ生地(HBTか綾織か)、ウエストの作り(ベルトループか総ゴムか)、タグの3つだけです。
サイズ表記はあてになりません。必ず実寸で

総ゴム個体のウエスト内側。裏地は白く、柄が透けているだけ
この記事で出てきたサイズ表記を並べてみます。15、(大)、대、FREE。統一された規格はどこにもありません。
作られた時代も工場もばらばらで、しかも元は10代の学生に向けて作られた服です。表記を信じて選ぶと、まず外します。
当店は全ての商品でウエスト・股上・股下・わたり・裾幅を実測して載せています。手持ちのパンツを平置きで測って、その数字と比べてください。それがいちばん確実です。
当店がこの柄をどう書くか
・柄の呼び名はバクテリアカモ(アメーバカモ)と書きます。市場で定着した通称であって、正式名称ではないという前提で使います。
・韓国軍の戦闘服とは書きません。1991年以前の韓国陸軍は単色でした。書くとすれば「韓国の教練服・軍で使われた斑柄の系統」までです。
・タグが読めた個体は、読めた文字をそのまま記載します(영진제복/an-arkhos/ANHELON/UTU)。読めなければ、読めないと書きます。
・年代は10年単位の目安で書きます。生地・ウエストの作り・タグから推定した幅で、単年では書きません。
・NEW MADEのように市販品と読める表記が出た個体は、実物とは書きません。過去の出品で書いてしまっていたものは、この記事で訂正しています。
古着を高く売りたいなら「軍実物」と書いたほうが通ります。それは分かっています。ただ、値段は服が持っている事実の上にしか乗らないと思っています。
70年代のHBTが¥23,500で、90年代のNEW MADEが¥3,200。この7倍以上の差は、柄ではなく、生地と作りとタグが作った差です。ちゃんと書き分ければ、その差はお客さんに伝わります。
■ 販売中の関連商品・関連記事
この記事に載せた14着は、すべて販売済みです。写真は当店が扱った実物を自社で撮影したものを使っています。
同系統の入荷があり次第、このページに追記していきます。現在お求めいただけるミリタリーはこちらから。
サイズは全て実測値を商品ページに記載しています。迷ったらお問い合わせください。手持ちの1本と比べてお答えします。
写真はすべて、当店(株式会社clown / ib2)が実際に取り扱った個体を自社で撮影したものです。他店・他者の写真は使用していません。
「バクテリアカモ」「アメーバカモ」は日本の古着市場での通称です。韓国側の正式な柄名として確認できたものではありません。
年代表記は、生地・ウエストの作り・タグから推定した10年単位の目安です。単年の断定はしていません。
主な参照: Camopedia「South Korea」(韓国最初の迷彩=米軍M1942スポット柄由来・5色・HBT・非リバーシブル/1970年代半ばに海兵隊と特殊戦部隊が更新/1990年代まで公立高校の軍事教練で使用)、韓国民族文化大百科事典「교련복」(1969年登場・白色地に黒色のまだら・シャツ/パンツ/帽子・2011年消滅)、韓国報道(2014年・얼룩무늬 전투복の採用は1991年から、デジタル迷彩は2011年から)。
an-arkhos / ANHELON / UTU については、韓国側の一次情報を確認できていません。タグに印字されていた文字としてのみ記載しています。
記述に誤りを見つけられた方はご一報ください。実物と資料で確認のうえ、この記事を直します。
