2026/07/17 19:24

白タグのBarbour(バブアー) SOLWAY ZIPPER。当店が扱ってきた中でも最も高い値が付いた一着で、現在も販売中です。ただしこの一着も、製造年を1年単位で言い当てることはできません(理由は後述します)。
古着屋をやっていると、「これはヴィンテージですか」と聞かれることがあります。正直に答えると、その答えは店によって変わります。ヴィンテージという言葉には、法律の定義も、公的な認証制度もないからです。
それでも、言葉が曖昧なまま値段だけが動くのは気持ちのいい話ではありません。この記事では、世の中でよく使われる年数の基準がどこから来ているのかを出どころごとに整理したうえで、当店が実際に何を根拠に年代を書いているのかを、実物のタグ写真で公開します。
■ まず結論
「ヴィンテージ」に公式な定義はありません。年数の基準も20年・25年・30年と出どころで違い、業界団体自身が「公式な定義はまだない」としています。
「100年=アンティーク」という線引きは実在しますが、それは米国の関税分類、つまり輸入手続き上の区分の話です。
日本の法律(古物営業法)にも年数の要件はありません。昨日買われた服も、50年前の服も、同じ「古物」です。
だから当店は、言葉の定義を争うより「その年代だと言える根拠が、この一着にあるかどうか」を書くことにしています。
【年数】何年からヴィンテージ? — 20年・25年・30年、どれも慣行
「何年からヴィンテージか」は、20年(Etsy等の出品規約)、25年(Vintage Fashion Guildの慣行)、30年(学術文献)と出どころによって異なり、業界団体自身が「公式な定義はまだない」としています。
つまり20年でも25年でも30年でも、それぞれ根拠のある言い方です。逆に言えば、どれを採っても「これが正解」とは言えません。海外のマーケットプレイスに出品するときの規約上の線引き、団体が実務で使ってきた慣行、研究者が使う区切り。もともと別の目的で引かれた線が、同じ「ヴィンテージ」という一語に相乗りしているだけです。
ややこしいのは、この線が毎年動くことです。20年基準なら、いま2026年ですから2006年の服がヴィンテージに入ります。10年経てばY2Kの服がまるごと入ってきます。年数だけを基準にすると、言葉の中身は放っておいても勝手に変わっていきます。
【100年】「100年=アンティーク」の出どころは、米国の関税分類
「100年」という線引きは、米国の関税分類(HTSUS 9706)に実在する基準ですが、あくまで輸入手続き上の区分であって、世界共通の一般定義ではありません。
項目名は「Antiques of an age exceeding one hundred years(製造から100年を超える骨董品)」。この区分で輸入すれば無税になりますが、そのぶん100年を超えていることを示す資料が要り、100年に満たないと判断されれば別の税率で課税されます。骨董の定義というより、税をどちらに振り分けるかの線引きです。
日本語で見かける「アンティークは100年以上、だからヴィンテージは30〜99年」という説明は、この関税の区分から逆算した言い方です。出どころ自体ははっきりしていますが、それを世界共通の定義のように書くのは行き過ぎだと考えています。実はこの記事にも以前そう書いていたので、今回まとめて直しました。
【法律】日本の法律には、年数の要件がない
日本で古着を売るには古物商の許可が要ります。その古物営業法の第二条は、「古物」をこう定義しています。
「一度使用された物品(中略)若しくは使用されない物品で使用のために取引されたもの又はこれらの物品に幾分の手入れをしたものをいう」
年数はどこにも出てきません。一度でも人の手に渡って使われたなら、昨日買われた服も50年前の服も同じ「古物」です。扱う品の区分も、古物営業法施行規則では「衣類(和服類、洋服類、その他の衣料品)」の一語。法律の側に、ヴィンテージという分類は存在しません。
もう一つ大事なのが条文の後半で、「使用されない物品で使用のために取引されたもの」も古物に含まれます。つまり一度も袖を通していないデッドストックも、法律上は古物です。この点は後でもう一度触れます。
【読める】年代が「読める」服 — タグに年が書いてある
ここからが、当店が実際にやっていることです。ヴィンテージかどうかを決める前に、まず「この一着の年代を、何を根拠に言えるか」を見ます。根拠が強い順に、実物を並べます。

米軍M-65パーカーの契約ラベル。「PARKA, EXTREME COLD WEATHER/DSA100-74-C-0168/VANDERBILT SHIRT CO., INC./CHEST: FROM 37 TO 41 INCHES」。番号の中の74が契約年度にあたります。

別の一着。「DLA100-83-C-0482/SO-SEW STYLES, INC.」。頭がDSAからDLAに変わり、83が契約年度。同じ型でも、一着ごとに番号が違います。
軍の放出品は、この点でいちばん強い部類です。品名・契約番号・納入業者・胸囲・NATOサイズまで刷ってある。番号の中の2桁が契約年度を指すとされ、当店もこの読み方で年代を書いています。それでも「1974年製」とは書きません。書けるのは「74年度の契約で作られた個体」までです。

Carharttの胸ポケットに付く記念タグ。「100 YEARS/1889/1989/carhartt」。

そのタグが付いていたチョアコート。創業1889年から100年=1989年と、服が自分で年を名乗っている珍しい例です。
周年タグや、プリントに刷られた著作権表示は、いちばん分かりやすい根拠です。ここまで書いてあれば、当店も「1989年前後」と書きます。

adidasの表タグ。「adidas/BRD/ W.GERMANY/DIE MARKE MIT DEN 3 STREIFEN」。下段はドイツ語で「三本線のブランド」の意味。

同じ一着の内側。「PRODUCED BY DESCENTE UNDER ADIDAS LICENSE/C-OS-3011」。作っていたのは日本のデサントでした。
こちらは「読めるけれど、読み違えやすい」例です。W.GERMANY(西ドイツ)という国名は1990年のドイツ再統一以降は使われなくなったので、古い年代の目安にはなります。ただしそれはブランドの表示であって、生産地ではありません。表と裏を両方見ないと、「西ドイツ製の一着」と書いてしまいます。この見分けはadidasの記事に詳しく書きました。

Championのリバースウィーブ。「MADE IN U.S.A. RN 26094」。生産国は確定できますが、年そのものは書かれていません。
このタグから確実に言えるのは「アメリカで作られた」ことだけです。近年のホンジュラス製・ベトナム製より前、という順番は分かりますが、そこから何年かは決まりません。当店は90年代前後の目安として扱い、商品説明にもその温度で書きます。
【読めない】年代が「読めない」服 — 当店は「不明」と書きます

同じ米軍のフィールドコートでも、これは経年で退色し、品名「COAT, COLD WEATHER, MAN'S FIELD」はかろうじて読めるものの、契約番号が判読できません。

タグそのものが残っていない一着。星型エンボスの金属ボタンや非対称のポケットなど古い作りの特徴はありますが、年代を確定する材料がありません。
この2着に、当店は年代を書きません。作りの特徴から「たぶん古い」とは思いますが、思うだけです。商品説明には「不明」と書きます。惜しい気持ちはありますが、読めないものを読めたことにすると、その店が書いた他の年代も同じだけ怪しくなります。

記事の最初に載せた、販売中のバブアーの内側。「Barbour's of SOUTH SHIELDS」。王室御用達(ロイヤルワラント)の表示はありません。
そして、その中間がこの一着です。Barbourが最初のロイヤルワラントを受けたのは1974年とされ、以降のタグには紋章が入ります。この個体のタグにはそれが無い。ここまでは「ワラントが入る前の様式」という手がかりです。ただしそこから先、何年に作られたかは特定できません。当店はタグの様式と作りから50年代とみて出品していますが、これは断定ではなく当店の判断で、商品説明にもそう書いています。
【言葉】デッドストックは、二つの意味で使われる
在庫管理の世界でデッドストックといえば「売れずに残ってしまった在庫」、つまり厄介者のことです。同じ言葉を古着の市場で使うと、「当時のまま、使われずに残っていた新品」という褒め言葉に変わります。
どちらが正しいという話ではなく、業界が違えば言葉の意味も変わる、という例です。そしてさきほどの条文どおり、未使用でも取引されれば古物です。デッドストックと書かれた品を見るときは、「本当に当時のものか」と「本当に未使用か」を別々に確かめる必要があります。当店では、タグが残っている・使用感がないなど、未使用と書ける根拠がある場合に限ってこの言葉を使います。
【価格】1990年代の服に5万円が付くこともある

1990年代のSouth ParkのTシャツ。ボディはGildan、サイズXL。当店の価格は54,080円。

プリントの下に「TM & © 1997 Comedy Central. All Rights Reserved.」。この一着が1997年より前には存在し得ないことが、ここで分かります。
50年代のコートより60年ほど新しい一着に、当店では5万円台の値を付けています。値段を決めているのは年数ではなく、残っている数と、探している人の数です。当時のライセンス品で、プリントが生きていて、欲しい人がいる。それだけで、もっと古い服より高くなります。「古い=高い」でも「ヴィンテージ=高い」でもありません。
ついでに言えば、この著作権表示は年代の手がかりとしても優秀です。刷られた年より前に、その服は作れません。年を1年単位で確定はできませんが、下限だけははっきりします。
【方針】当店の使い分け
「ヴィンテージ」に公的な認証制度はなく、どの服をそう呼ぶかは最終的に販売する店の判断によります。だから当店は、呼び方そのものより、根拠を開示するほうに寄せています。
・年代は「70s」「80s」のように10年単位の目安で書き、1年単位では断定しない
・年代を書くときは、その根拠(契約番号・周年タグ・著作権表示・タグの様式・生産国表記)を商品説明に添える
・根拠がない個体は「不明」と書く。それらしい年代で埋めない
・「ヴィンテージ」の語は、年代の根拠を示せる古い個体にだけ使う
以前この記事には、当店の基準として「20年を超え、かつ来歴が確認できるもの」と書いていました。考え方は変わっていませんが、線を数字で言い切るより一着ごとに根拠を出すほうが正直だと考え、書き直しました。
そして、呼び方が何であれ、着るときに効いてくるのはサイズです。当店は全品、平置きの実寸(cm)を測って載せています。読み方は実寸で古着を選ぶにまとめました。
■ 販売中の関連商品・関連記事
写真はすべて当店で撮影した実物です(過去に取り扱った個体を含みます)。掲載価格・在庫は記事作成時点のものです。
出典: Etsy(ヴィンテージ品の出品規約) / Vintage Fashion Guild / 米国関税分類 HTSUS 第9706項「Antiques of an age exceeding one hundred years」 / 古物営業法 第2条・古物営業法施行規則 第2条(e-Gov法令検索)。
2026年7月、写真と出典を加えて全面的に書き直しました。以前の版にあった「アンティーク=100年以上だからヴィンテージ=30〜99年」という説明は、出どころが米国の関税分類であることを明記する形に改めています。
