2026/09/07 01:50

古着の洗濯タグは、年代を「◯年以降」の向きにだけ教えてくれます。洗濯記号は1963年、米国の文字ケア指示は1971年、絵表示だけの表示は1997年が節目です。当店の1950-60年代の在庫とあわせて、逆向きに使えない理由まで説明します。
写真:60s モールスキン フレンチワークジャケット(ボタンダブル/身幅54・着丈68cm)。この記事に載せているのは各個体の全体写真です。タグや細部の写真は商品ページでご覧ください。
まず結論 — ケアラベルは「以降」の向きにしか使えない
年代判別の手がかりは、たいてい「なんとなくそれっぽい」で終わります。ボタンの質感、生地の風合い、ジッパーの刻印。どれも決め手のように語られますが、実際には反証が山ほどあります。
その中で洗濯タグ(ケアラベル)が特別なのは、制度に紐づいている点です。ある年に規則ができ、その年から表示が始まった。だから「この表示があるなら、その規則より後だ」と言えます。日付そのものが読めるとき以外で、これだけ根拠のはっきりした手がかりは多くありません。
ただし、使える向きは片側だけです。「洗濯記号があれば1963年以降」は正しい。しかし「洗濯記号が無いから1963年より前」は誤りです。タグは落ちますし、作業着には最初から付いていないことも珍しくありません。この記事で扱う3つの節目は、すべて「以降」の形でしか書きません。
節目①:1963年 — 洗濯記号(ピクトグラム)があれば1963年以降
盥(たらい)、三角、アイロン、丸。ヨーロッパの衣類に付いている洗濯記号の体系は、GINETEXが1963年に設立され、同じ年に記号を導入したところから始まります。したがって、この形式の洗濯記号が付いているなら1963年以降と言えます。
上限は決まりません。この記号は現在も使われているからです。「1963年以降(上限不明)」——年代の帯を出せるのは、別の手がかりで上側が塞がったときだけです。

写真:60s Metis(綿麻の交織)メカニックジャケット/身幅50・着丈68cm(商品ページ)。フランスの作業着は、洗濯記号の制度が始まる時期をまたいで作られ続けています。「記号があるか無いか」だけで年代を割ろうとすると、ここで外します。
節目②:1971年 — 米国の「文字のケア指示」があれば1971年以降
アメリカは記号ではなく、文字でのケア指示から始まりました。連邦取引委員会(FTC)のCare Labeling Ruleが1971年に制定され、文章での取扱い指示が付くようになります。つまり米国製の衣類に文字のケア指示があれば1971年以降です。
ここでも上限は決められません。文字のケア指示は現在も併記されています。「文字の指示がある=古い」も「文字の指示がある=新しい」も、どちらも言えません。
節目③:1997年 — 絵表示だけなら1997年以降
そのFTC規則が1997年に改正され、絵表示(シンボル)だけでの表示が認められました。したがって米国のケアラベルが絵表示のみで、文字のケア指示が無いなら、1997年以降と読めます。
逆は成り立ちません。文字の指示が併記されているからといって1997年より前だ、とは言えない。現在も併記されている製品はいくらでもあります。
なお、この節に当てはまる米国製の個体は、今回ご紹介している1950-60年代の在庫一覧の中にはありません。該当する個体が入荷したときに、実物写真とあわせて追記します。手元に無い写真で代用はしません。
フランスの組成表示を「1973年以降」と書いてはいけない理由
フランス語の繊維組成表示(コットン◯%、といった表示)は、おおむね1960年代以降の手がかりです。ここでよくある誤りが「1973年以降」と書いてしまうことです。
1973年3月14日の政令(n°73-357)は、その第21条で「1963年10月25日の政令を廃止する」と明記しています。つまり1973年は新設の年ではなく、置き換えの年です。規制はそれ以前から存在していた。廃止条文を読まずに施行日だけを拾うと、10年ぶんずれます。

写真:50s フレンチチャイナ フレンチワーク コットンパンツ(W28 L24)。フランスのワークウェアは、組成表示や洗濯記号の制度が整う前の年代から連続して存在します。
「MADE IN 表記が無い=偽物」ではない
EUの繊維製品規則(1007/2011)が義務づけているのは繊維組成の表示であって、原産国の表示ではありません。だから欧州向けの製品に原産国表示が無いこと自体からは、何も言えません。「MADE IN が無いから偽物・並行品」という読み方には根拠がありません。
生産国表記そのものについての誤読は、リーバイスでも起きます。当店では洗濯タグを18本ぶん読んで検証した記事も公開しています(「ユーロリーバイス」はヨーロッパ製という意味ではない)。
NATO在庫番号は「国」を教えるが「年」は教えない
軍もののタグに 8405 12 … のような番号があるとき、先頭4桁は被服の区分(Outerwear, Men's)、次の2桁は国コードです(12=ドイツ)。つまりこの番号から読めるのはどの国が調達したかであって、年ではありません。

写真:ドイツ軍 1950s フィールドジャケット/身幅60・着丈77cm。NATO在庫番号は「どの国が調達したか」を示します。年代は、番号とは別の手がかりで読みます。
組織名から年代を導くときも作法があります。省庁の消滅年は上限にしか使えません。しかも官給品のスタンプや印刷済みラベルは、改称後も在庫が尽きるまで使われます。だから上限すら厳密ではなく、「これより後ではない可能性が高い」までしか言えません。
「無い」ことからは何も読めない — 欠品と交換の話
ボタン、吊りバンド、裾の締め紐、内側のインクスタンプ、縫い付けラベル、ジッパー。これらは欠落し、交換される部品です。だから「無い」ことから年代は読めません。

写真:60s- Vulcain ファーマーズ(W40)。ジッパーが欠損している個体です。無くなった部品は、年代の根拠になりません。

写真:50-60s フレンチワーク オーバーオール(商品ページ)。後ろの肩紐のボタンとサイドのボタンが欠損し、膝と裾にはリペア跡があります。着られてきた服では、これが普通の姿です。
同じ話として、「タグが無いから古い」も誤りです。タグは落ちます。作業着には最初から付いていないことも多い。強いのは「読めた文字」だけで、「無かったもの」ではありません。
材質から年代は出せない
コロゾ、カゼイン、ベークライト、尿素樹脂。ボタンの材質から年代を割り出す説明はよく見かけますが、当店はこれを年代の根拠にしません。理由は2つあります。非破壊で材質を確定する方法がないこと、そしてボタンは交換されうることです。

写真:50s フランス軍 M45サンプリング フレンチチノ(W29 L28・フランス製)。
当店の商品説明の中にも、ボタンの材質に触れているものがあります。読み物としての情報としては書きますが、年代の決め手としては扱わない——この線引きを、記事でも商品ページでも揃えていきます。
生地からも年代は出せない
コーデュロイの「太畝=古い/細畝=新しい」も、根拠のない読み方です。畝の太さは用途と流行で決まり、1インチあたり4〜18本が歴史的に並存しています。当店には本体と補修の当て布で畝が違う個体すらあります。

写真:60s- Adolphe Lafont 太畝コーデュロイ(W31)。太畝であることは、この個体の年代の根拠にはしていません。
生地名の誤解もひとつ。Métis(メチス)は軍の型式名ではありません。綿と麻の交織を指すフランス語の生地名です。上のメカニックジャケットの「Metis」も、軍の制式番号ではなく生地の呼び名です。
サイズ表記も、読めれば「◯年以降」の手がかりになる
フランス軍のパンツに見られる数字だけの2桁コードは、1950年の軍改革で導入されました。だからこのコードが読めれば1950年以降と言えます。ここでも言えるのは「以降」の側だけです。
ただし一の位のスケールはパンツとジャケットで別物で、同じ数字でも上下で意味が変わります。当店の資料で裏の取れている範囲を超えて、数字から胸囲やウエストを断定することはしません。そもそも、この数字は着用者の身体寸法の目安であって、製品の実測ではありません。同じ表記で3インチ差の個体が同時に在庫したこともあります。

写真:60s フランス軍 M47 後期(表記「25」)/身幅58・着丈72cm。2桁コードは読めますが、そこから胸囲を割り出すことはしません。掲載の実寸をご確認ください。

写真:50s フランス軍 ライナーパンツ(W35 L27・商品ページ)。サイズは表記ではなく、平置きの実寸で合わせるのが手堅い方法です。
いちばん強いのは、やはり「読めた日付」
制度に紐づくシグナルは強力ですが、それでも「以降」しか出せません。年代を1点で決められるのは、個体に日付そのものが読めたときだけです。
当店の在庫でも、契約番号と日付が並んで印字されたイギリス軍のウールパンツ(1943年1月9日)や、年号が入ったオランダ軍の個体(1971年)のように、文字が読めた例があります。逆に、日付らしき数字が読めてもロット番号の可能性を消せないときは、断定しません。
だから当店の年代表記は10年単位です。単年を出すのは、個体に日付が読めたときだけ。「60s」と書いてあるのは、そこまでしか言えないという意味です。
読み方の手順(買う前のチェック)
1. まず読めた文字を全部書き出す。ブランド名、国名、番号、年号らしき数字。
2. 読めた文字に紐づくシグナルだけを当てる。読めなかったものには何も当てない。
3. 各シグナルに「以降」か「以前」かの向きを付ける。向きの付かない手がかりは、年代の材料から外す。
4. 両側が埋まったときだけ年代の帯を出す。片側だけなら「◯年以降(上限不明)」で止める。
5. 読めなければ「不明」と書く。埋めない。
この手順は、当店がAIに年代を推定させるときのルールと同じものです。人が読むときも機械に読ませるときも、外れ方は同じところで起きます。
当店の表記方針
年代は10年単位の目安です。断定はしません。分からないことは「不明」と書きます。サイズは表記ではなく平置き実寸で判断していただけるよう、各商品ページに採寸を掲載しています。実寸をご確認のうえお選びください。
この記事で紹介した個体

写真:60s- Super Costaud フレンチワーク パンツ(W34)。ブランド名が読めるタグは、それ自体が手がかりになります。

写真:60s NOVACOST アトリエコート(身幅52・着丈95cm)。
上記はすべて1950-60s カテゴリの在庫です。この記事の写真はいずれも全体写真で、タグや細部の写真と採寸は各商品ページに掲載しています。
関連記事:フレンチワークの見分け方・完全ガイド/古着とヴィンテージの違いとは
掲載写真はすべて当店で撮影した実物です。年代の記述は、制度(規則の施行日)と社史に紐づく事実に限って書いています。裏の取れていないことは書きません。追加の手がかりが確認できた時点で、この記事に追記します。
