2026/09/15 18:06

SANFORIZED や SANFOR のタグは、防縮加工の呼び名ではなく登録商標です。読めた綴りごとに「◯年以降」という下限が出ますが、上限は出ません。表記が無いことからも年代は読めません。当店の実物写真とあわせて整理しました。
写真:【W43 L27】40s フレンチワーク Metis インディゴ パンツ。FRENCH WORK のカテゴリでいちばん値の張る1本です。当店はこの個体の年代を「40s・確度は推定」としていて、SANFOR の表記からは出していません。
まず結論 — SANFOR は「商標」なので、出るのは下限だけ
SANFORIZED と SANFOR は、アメリカ・ニューヨーク州トロイの Cluett, Peabody & Co. が登録した商標です。ライセンスを受けた工場の生地や衣類にだけ付きます。
商標には、アメリカの特許商標庁(USPTO)に「最初に使った日」と「登録した日」が残っています。だから、タグに読めた綴りが世に出た年より前に、その服が作られたことはありません。ここから「その年以降」という下限が出ます。
言えるのはそこまでです。この商標は今も使われているので、上限は出ません。表記が無いことからも、何も読めません。この記事は、この2つの「言えないこと」を中心に書いています。
綴りごとに出る下限 — USPTO の登録記録から
読めた表記ごとに、言えることが変わります。当店が拠り所にしているのは、USPTO の登録記録です。
SANFORIZED(反物・生地)。初使用は1930年8月5日、登録は1930年12月16日で、登録番号は278395です。読めれば1930年以降と言えます。
同じ SANFORIZED でも、衣類の区分は登録が後になります。紳士シャツ・下着は1937年12月21日の登録なので、衣類への表示としては1937年以降。男女子供の衣料全般は1944年2月8日の出願(登録番号408780)で、1944年以降です。
SANFOR(反物・生地)。初使用は1936年10月5日、登録は1937年2月9日、登録番号343178。紳士シャツ・下着の区分は初使用が1936年9月25日(登録番号351572)です。どちらも1936年以降と言えます。
SANFORIZADO(スペイン語の綴り)は初使用が1939年6月16日で1939年以降。SANFORSET はレーヨンの反物向けで、出願が1940年9月16日なので1940年以降です。
ヨーロッパのワークウェアで見かける、角で囲んだ S のロゴと SANFOR を組み合わせた表記は、初使用が1951年9月14日(登録番号568537)。ドイツ語綴りの S+SANFORISIERT は、生地向けの初使用が1951年5月3日、衣類向けが1951年9月14日です。どちらも1951年以降と言えます。
どの行も「以降」です。「以前」は1つもありません。これが、このタグを読むときのいちばん大事な前提です。
SANFOR は SANFORIZED の略ではない
古着の現場では「SANFOR は SANFORIZED を縮めた後年の簡易版」「ヨーロッパの模倣」と説明されることがあります。どちらも成り立ちません。
SANFOR は、1936年にアメリカで別に登録された、同じ系列の正規の商標です。SANFORIZED の1930年とは、6年しか離れていません。だから、綴りの違いから年代の前後を決めることはできません。「SANFOR だから新しい」「SANFORIZED だから古い」とは読まないでください。
同じ理由で、「SANFORIZADO は中南米で作られた証明」とも言えません。登録はアメリカで、どの地域で使われたかの裏は取れていません。
上限が出ない理由 — 今も生きている商標
「SANFORIZED と書いてあるから戦前」という言い方をよく見かけます。これも成り立ちません。
この商標は現在、ドイツの SANFOR GmbH が運営していて、100か国以上で登録されています。今のライセンス生地にも付きます。つまり、新品の生地にも同じ文字が載るということです。
基準も現行のものがあります。ISO 6330 の洗濯試験で、織物は±1%以内、ニット向けの SANFOR-KNIT は±5%以内です。
派生の表記として SANFOR PLUS(樹脂加工)、SANFOR PLUS 2(混紡+樹脂加工)、SANFOR SET(液体アンモニア処理)があります。権利者自身が「あまり使われていない」と書いているので、見かけたら珍しい表記です。ただ、珍しいことと古いことは別で、これらから年代は出ません。
表記が無いことからは、何も読めない
ここがこの記事の芯です。上の表は、読めたときにだけ使えます。「SANFOR の表記が無いから1930年代より前」とは言えません。理由は3つあって、どれも仕組みの問題です。
1つ目は、ライセンス制であること。表記できるのは、ライセンスを受けた工場の生地だけです。防縮加工をしていても表記しない生地は、当時からずっとありました。
2つ目は、落ちる場所に書かれていること。権利者自身が、多くの工場は生地の耳(セルビッジ)に一定の間隔で Sanforized と捺印する、と説明しています。縫い付けの襟ラベル、ハングタグ、糊付きのラベルなど、表示のしかたはいろいろです。どれも、切られたり、外れたり、洗って消えたりします。
3つ目は、今も生きている商標であること。上限が出ないので、有る場合でも「古い側」には寄せられません。

写真:【W28 L25】30-40s ファーマーズ コットンピケ ブラック ストライプパンツ。当店の商品説明で「タグ:なし」としている個体です。タグが無いことを、古さの根拠にはしていません。
当店では、ボタン・吊りバンド・裾の締め紐・内側のインクスタンプ・縫い付けラベル・紙タグ・ジッパーを、欠けたり交換されたりする部品として扱っています。「無い」ことからは何も読みません。SANFOR の表記も、この並びに入ります。

写真:【W33 L30】40-50s ファーマーズ ストライプ ブラック。この個体も商品説明は「タグ:なし」です。読める文字が無い個体では、年代を10年単位の幅で出しています。
よくある4つの誤解
当店が「書かない」と決めている言い方を、理由とあわせて並べます。
1. 「SANFORIZED/SANFOR の表記=戦前・ヴィンテージ」。成り立ちません。現行の新品の生地にも付くので、上限が出ません。
2. 「SANFOR が無い=1930年代より前」。成り立ちません。ライセンス制で、表示も落ちる場所にあるからです。
3. 「SANFOR=SANFORIZED の略・廉価版・ヨーロッパの模倣」。成り立ちません。1936年にアメリカで別に登録された、同じ系列の商標です。
4. 「Sanforized の文字から製造年が読める」。商標であって、年号ではありません。読めるのは下限だけです。
フレンチワークで SANFOR を探すときの注意
当店の在庫はフレンチワークが多いので、ここは実務の話です。
ヨーロッパのワークウェアで見る S の角囲みロゴ+SANFOR や、ドイツ語綴りの SANFORISIERT は、上の表のとおり1951年以降と読めます。一方で、フランス語綴りの SANFORISÉ については、当店は商標の記録を確認できていません。だから、この綴りから年は出しません。
「SANFOR はヨーロッパ向け、SANFORIZADO は中南米向け、SANFORIZED はそれ以外」という地域の分担も、よく見かける説明です。ただ、権利者の現行ページではその記述を確認できていません。ヨーロッパ(EUIPO や各国の官庁)での登録年も未確認です。確認できていないことは、書きません。

写真:【W43 L27】40s フレンチワーク Metis インディゴ パンツの別カット。Métis は綿と麻の交織を指すフランス語の生地名で、軍の型式名ではありません。
SANFOR 以外の手がかりにも、同じ癖が出ます。たとえばシンチバック。「針式のシンチが付いていれば戦前」はアメリカのデニムの話で、フランスのワークウェアのシンチは戦後も続きます。ボタンの材質(コロゾ、カゼイン、ベークライト、尿素樹脂)も、壊さずに材質を確定する方法が無く、交換の可能性も残るので、年代の根拠にはしません。

写真:【W38 L28】40s Le Cedre ファーマーズ 細畝コーデュロイ ブラック。生地の見た目も、単独では年代を決めません。コーデュロイの畝の太さは用途と流行によるもので、「太畝は古い、細畝は新しい」とは言えません。

写真:【身幅54 着丈68cm】60s モールスキン フレンチワークジャケット ボタンダブル。当店の年代表記は、10年単位の目安です。
ほかの手がかりと組み合わせる
SANFOR の表記だけでは、下限しか出ません。帯にするには、上限を出す手がかりが別に要ります。
下限が複数あるときは、いちばん遅い年を採ります。たとえば同じ服に、読める SANFOR の表記と、GINETEX の洗濯記号の両方があれば、洗濯記号の1963年以降のほうが強い下限です。アメリカのケアラベルで、文字のケア指示があれば1971年以降、絵表示だけなら1997年以降です。
上限は、別の種類の手がかりから出ます。工場の閉鎖年がその代表です。リーバイスの MADE IN BELGIUM や MADE IN FRANCE はおおむね1999年以前、MADE IN UK はおおむね2002年以前と読めます。ただし、印刷済みのラベルやスタンプは、在庫が尽きるまで使われることがあります。だから上限も、当店は「〜より後ではない可能性が高い」に留めています。
下限と上限の両方が埋まったときだけ、年代の帯を出します。片側しか出ないときは「◯年以降(上限は不明)」と書きます。

写真:【W37 L29】70s- YVES SAINT LAUREN TEOLAIRジッパー ストライプ。当店はこの個体を「70s-」と下限だけで出し、上限は書いていません。ジッパーは交換される部品なので、決め手にもしていません。
SANFOR の表記の写真は、この記事にありません
正直に書きます。この記事に載せた当店の個体で、SANFOR の表記を読み取った記録はありません。当店の在庫を「sanforized」で検索しても、該当する商品は出てきませんでした(2026年9月時点)。
だから、SANFOR のタグや耳の捺印そのものの写真は1枚もありません。よその写真を借りることも、似た別のタグを「SANFOR のタグ」と説明することもしません。この記事の写真は、すべて当店で撮った当店の個体です。
読める個体が入荷したら、この記事に写真を足します。そのときは綴り(SANFORIZED/SANFOR/S の角囲みロゴの有無)と、どこに書かれていたか(耳・ラベル・ハングタグ)を、読めたとおりに転記します。
まだ分かっていないことも書いておきます。SANFORIZED-PLUS/SANFOR PLUS が登場した年、フランス語綴り SANFORISÉ の商標記録、日本での登録年は、当店では確認できていません。
当店が年代を書くときの決まり
手がかりには、以降・以前・絞れない の3つの向きがあります。当店は、読めた文字から始めて、その文字に結びつく手がかりだけを使います。読めなければ「不明」と書き、埋めません。
年代は10年単位です。単年を出すのは、その個体に日付そのものが読めたときだけです。
サイズも同じ考え方です。表記の体系は国ごとに別で、混ぜると外します。最後に頼れるのは平置きの実寸だけなので、商品ページの採寸をご確認ください。
買う前に見るところ
SANFOR の文字が見えた1本を前にしたら、順番はこうです。
1つ目、綴りをそのまま読む。SANFORIZED なのか、SANFOR なのか、S の角囲みロゴが付くのか。ここで下限が決まります。2つ目、どこに書かれているかを見る。生地の耳の捺印か、縫い付けのラベルか、ハングタグか。3つ目、ほかの下限を探す。洗濯記号やケアラベルがあれば、遅いほうの年を採ります。4つ目、上限になる文字を探す。生産国の表記など、別の種類の手がかりです。5つ目、実寸を見る。
SANFOR の文字が見えなかった1本なら、そこからは何も読みません。ほかの読める文字に進みます。
この記事で触れた当店の個体
写真を出した個体です。40s フレンチワーク Metis インディゴ パンツ(W43 L27)、30-40s ファーマーズ コットンピケ ブラック ストライプパンツ(W28 L25)、40-50s ファーマーズ ストライプ ブラック(W33 L30)、40s Le Cedre ファーマーズ 細畝コーデュロイ ブラック(W38 L28)、60s モールスキン フレンチワークジャケット ボタンダブル、70s- YVES SAINT LAUREN TEOLAIRジッパー ストライプ(W37 L29)。
同じ系統をまとめてご覧になるなら、FRENCH WORK のカテゴリからどうぞ。
タグの読み方の続きは、こちらに書いています。洗濯タグ(ケアラベル)で古着の年代を読む、UNION MADEタグは「アメリカ製」ではない、ジッパーの刻印で年代は決まるか、コーデュロイの年代は畝の太さでは決まらない、フレンチワークの見分け方・完全ガイド。
写真はすべて当店の実物を当店で撮影したものです。商標の年は米国特許商標庁(USPTO)の登録記録、現行の運用と基準は商標権者 SANFOR GmbH の公式サイトによります。読めた文字だけを書き、読めないものは不明としています。在庫の状況により、掲載した個体が売り切れている場合があります。
